大判例

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東京高等裁判所 昭和38年(う)587号 判決

被告人 横山七郎

〔抄 録〕

各所論は、るるいつているが、被告人は、原判示第一の放火の事実には、まつたく身に覚えのないことであり、また、原判決が、右第一の事実を認定した証拠をみると、被告人の自白だけであつて、これを補強するに足る証拠がないので、原判決の右第一の事実には、事実の誤認と訴訟手続上の法令違反があるという旨の主張に帰する。

そこで、各所論にもとづき、記録を調査して審按するに、原判決は、その罪となるべき事実中の判示第一の事実につき、

一、被告人の検察官に対する昭和三七年三月六日付、同月一〇日付各供述調書と司法警察員に対する同年三月五日付、同月六日付、同月八日付、同月九日付(二通)、同月一〇日付(一三枚分)、同月一一日付(三枚分)、同月一二日付(全部で八枚分、三枚分、二枚分)各供述調書

二、被告人作成の昭和三七年三月一二日付「陳謝書」と題する書面(右一、二は、被告人の自白)のほか

三、平山義重の検察官に対する供述調書と同人作成の火災申報書

四、石川なみの司法警察員に対する供述調書

五、当裁判所の検証調書(昭和三七年五月二六日施行分)

六、司法警察員作成の昭和三七年三月一〇日付現場写真報告書

七、証人野上憲に対する当裁判所の尋問調書

八、野上憲の検察官に対する昭和三七年三月八日付、同月二〇日付、同年四月二日付各供述調書と司法警察員に対する昭和三六年一二月二六日付供述調書

九、平松平之介、寺門刀子の司法警察員に対する各供述調書

一〇、証人郡司要、同郡司文仁、同早瀬四郎、同野上憲の当公判廷における各供述

一一、水戸鉄道管理局長作成の「水運総第三一七号放火等被疑事件の照会に対する回答について」と題する書面

一二、司法警察員作成の昭和三七年三月一六日付捜査報告書(七枚分)

一三、司法警察員作成の「放火被疑事件につき実験報告書」と題する書面

一四、司法警察員作成の昭和三六年一二月二九日付実況見分調書

一五、押収してある給食用ミルクのダンボール製円筒型空箱の焼け残り一個、釘一本、私物日誌一冊

により認定していることが、その判文にてらし明らかである。

ところで、刑事訴訟法第三一九条第二、三項によれば、被告人は、その自白が自己に不利益な唯一の証拠である場合は有罪とされず、かつ、自白によつて犯罪事実を認定するには、補強証拠を必要としているのであるが、右三ないし一五の補強証拠のみをもつてしては、原判示瓜連小学校三号校舎の東出入口付近の個所から発火して、原判示の各建物が全焼したことの補強証拠となることができるけれども、右各建物の全焼が、被告人の放火行為に起因するかどうかを十分に裏付しているものとは、とうてい認めることができない。してみると、右三ないし一五の各証拠は、右一、二の被告人の自白と相俟つて、原判示第一の放火の事実を肯認するに足る補強証拠としては不十分であり原裁判所において取り調べたその余の証拠及び当審の事実取調の結果によつても補強するに足るものがないから、原判決が判示第一の事実を有罪と認定したのは、右刑事訴訟法第三一九条に違背した違法があるといわなければならない。したがつて、この点に関する各論旨は、その理由がある。

(小林健 遠藤 吉川)

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